子育てに悩んでいるとき、解決法を探して正論を聞いても心が疲れるときってありませんか?
今日ご紹介する児童精神科医さわさん著の『子どもが本当に思っていること』(2024年、日本実業出版社)は、そんなお母さんに向けて書かれた、優しい語り口調で寄り添ってくれる一冊です。
本屋さんで平積みされていて手に取ったのですが、著者のさわさんは、子どもの心の専門家であると同時に、不登校の娘さんを育てる母親でもあるそうです。その経験をもとにして本書のなかで紡がれる言葉は、単に専門的な知識や正解を示すものではなく、実際に悩んだり苦しんだりしている親子の気持ちを理解してくれている安心感がありました。
印象に残った3つの子育ての秘訣
この本は1項目ごとに話が完結しているので、気になるところから読める構成となっています。子育てで疲れているとき、時間がないときでも手に取りやすいのが魅力です。
どのお話も著者が子どもの心の専門家だけあって学びが深いのですが、全部はご紹介できないので、ここでは、中でも私の印象に残った3つの子育ての秘訣についてレビューしたいと思います。
お母さんはただそばでおだやかに笑っているだけで子どもは安心する
この本ではさまざまなシチュエーションで、お母さんが子どもにどのように接するべきなのかのヒントが述べられていますが、通底するメッセージは、「お母さん、ただ子どものそばで穏やかに笑っていてください」という一言に尽きるように思いました。
「子どものために何かしなきゃ」と焦る気持ちは、多くの親が持つものです。でも、子どもにとっては、お母さんがただ隣にいて、穏やかに笑っていてくれるだけで、ものすごく安心できる。家庭で安心できるから、自分の世界を外に広げていく、自立することができるのだそうです。
「ただ笑顔で、愛情を持って、子どもを見守る」ということは、「一番簡単だけど一番大切で、多くのお母さんが一番できていないことです。そして、やろうと思えば、すぐにできることです」と著者は言います(p130〜131)。
私の子ども時代を振り返ると、私の母は、保育園のお迎えのときにとびきりの笑顔で、私に会えて嬉しそうにしてくれていたのを今でも覚えています。だから、いくぶん滅茶苦茶な母ですが、私は、母の私への愛情を疑ったことはありません(見守る姿勢には難ありだったように思いますが)。母の笑顔はやはり強力なようです。
でも…同じように私が息子にできているかどうかは、少し自信がないですね…。笑わなくちゃいけないって力を入れるのも違うように思いますが、息子といっしょにいられる喜び・愛情をもっと素直に表現していきたいと思いました。
わからないことはわからないままでいい。答え探しするよりも大切なこと
著者は、「わからないことをわからないままにしておける、わからないことを不安になりすぎない、答えを探すことに必死になりすぎない、ということが子育てにおいては、ときに必要なスキル」だと説きます(p229〜230)。「母も子も、それぞれ、別の人格」であり、相手のすべてを理解できるなんてことはないのだから、と。
この言葉にはすごくハッとさせられました。
確かにそうなんですよね。他人なら、その言動に理解できないところがあったとしても、その原因がわからなくても、違う人間だからな、と思えます。でも、自分が産んだ我が子となると、まだ自分の一部のような気がするせいなのか、生まれてからずっと見てきたからなのか、なんでもわかるのが当然という気になっていたことに気づかされました。
また、「子どもの人生の答えは子どもの中にあり、それは子ども自身が見つけていくものです。親はそれをそばで見守り支える存在、ということを忘れないでください」(p230)という言葉にも勇気づけられました。これは、親が原因を探してあげなくても、子どもが自分自身で答えを見つけ出していける力をを信じるってことですよね。信じて、待つって忍耐力がいることで、口でいうほど簡単ではないとは思います。でも、そのようにしてあげることこそが子どもの成長につながるように感じました。親が出しゃばって子どもの成長の邪魔にならないようにしないと、ですね。
子どもに伝えてほしいのは「人生の素晴らしさ」
著者が、「親ができるもっとも大切なこととして、子どもに『人生の素晴らしさ』を教えてほしい」(p244)と言っているのも、すごく頷けることでした。
30代後半ともなると、人生の酸いも甘いも一巡くらいは体験した、という方も多いのではないでしょうか。生きていれば、楽しいことや嬉しいことだけじゃなく、暗く悲しいこと、苦しいことも当然ありますよね。我が子にはそんな苦しい思いをなるべくしてもらいたくないのが親心ですが、それは無理というのが世の常です。であれば、苦しい時期を乗り越えるための希望の光を灯してあげたいと思います。
それは、人生は素晴らしい、苦しいことがあっても生きていれば必ずまたいいこともある、この世界は生きるに値する、というこの世界に対する確かな信頼を、子どもの中に育むことだと思っています。
シンプルに言えば、生きてると楽しいよってことを親の背中で子どもに教えてあげたい。
私は、すでに小学生の頃から学校が苦手で、大学卒業まで長すぎる…と思っていましたし、大人になっても、さらに自由のなさそうな世界で生きていかなくちゃいけないと思っていて、長いトンネルの先に光が見えない気がしていました。それは、思えば、身の回りに楽しそうに生き生きとしてる大人がいなかったというか、こうなりたいと思えるロールモデルがいなかったことが原因の一つだったように思います。多くの大人は、生活のために大変そうな仕事をすることに大半の時間を費やして、疲れて平日を過ごし、週末は平日がやってくる憂鬱さを抱えて、本当はしたいこと(ゆっくり家族と過ごすこととか)もままならないのを見ていたら、今がんばっても未来に自分が送りたくない生活像しか見えなかったんですよね…。
だから、子どもには、親自身が人生を謳歌している姿をたくさん見せてあげたいってずっと思ってきました。大人になったら責任も大きくなるけど、自分の好きなように生きられる自由があって楽しいよっていう実例を見せてあげたいです。そうしたら、苦しいトンネルの先にも光が見えるかもしれないから。
著者のバックグラウンドとその子育てに思うこと
上記までの子育てにおける秘訣という観点とは違うのですが、本を読み進める中でもう一つ印象的だったのは、著者自身のバックグラウンドでした。
著者は、愛情深く裕福な両親(父は医師、母は薬剤師)のもとに生まれ、著者自身も私立大学の医学部に進学し、医師になったというピカピカな経歴の持ち主ですし、学校でもずっと愛されキャラだったといいます。
しかし、その実、子ども時代、母は教育に非常に厳しく、家庭の学歴信仰が強かったため、勉強で落ちこぼれた著者は「生きることが苦しい」と感じていたし、親から管理し続けられたため、大人になってもしばらくは自分が生きているという実感がなかったというのです。外から見れば順風満帆に見えても、内側には深い苦しさを抱えて生きてこられたのですね。その人が真実何を抱えているのかは、その人にしかわからないと改めて思いました。
でも、子ども時代に受けた苦しみを知っているからこそ、著者の言葉には優しさが宿り、自分の子どもには、親とは違う接し方ができるようになったのではないかとも感じました。そして、子育てを通じて自分自身の考え方が変わることで、自分もまた癒やされていくような、そんなプロセスを歩まれているように思いました。
私自身、親にされて嬉しかったことは子どもにもしてあげようと思いますし、逆に、されて嫌だったことは子どもにはしたくないと思っています。私の母も、何事も一生懸命な人で、私をすごく愛してくれましたが、心配のあまり子どもを管理しようとする人でもありましたので、「自分の人生なのか親の人生なのか、よくわからなくなる」(p139)という著者の言葉には深く共感しました。思えば、母が許容する範囲にいれば、いい子として愛してくれるけど、そこを外れると否定される…そんな不安がつきまとっていて、自己肯定感が低かったです。でも、私がそんな苦しみを抱えていたことは、母にも、誰にもわからなかったと思います。
今、私も、親の子育てを客観視しながら、自分の子どもには選択の自由を尊重することで、私自身の内なる子どもをも育て直しているのかもしれないと思います。
子育ては親育てと聞いたことがありますが、本当に貴重な経験を親にさせてくれます。
実をいうと、子育て向いてないなって思うことも多々あるんですが、反面、この経験が私の人生には必要だったなとも思っています。
まとめ|子育てに不安を感じるお母さんにおすすめの一冊
『子どもが本当に思っていること』は、子どもを幸せにするために、「親はどう関わればいいのか」を考えるヒントをくれる本でした。
- お母さんはただそばでおだやかに笑っているだけで子どもは安心する
- わからないことはわからないままでいい。答え探しよりも、子どもが自分で答えを探すのをそばで見守り支えることが大切
- 親がもっとも教えるべきは「人生の素晴らしさ」
子育てに大切なことって本当はすごくシンプルなんですね。
親がいくら子どものためになることをたくさん考えていても、子どもに心底安心できる場所を提供できないと、子どもはしっかりと根を張り、大きく育つことはできない。そのことを肝に命じようと思います。
また、子どものそばで穏やかに笑顔でいるためにも「もっと私自身も人生を楽しもう」と改めて思いました。
今回のレビューで本書とフィーリングが合いそうでしたら、子育てしている方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。私もまた折に触れて読み返そうと思います。
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